自己紹介を終えたあと、私は山南さんに案内され、一室へ通された。
「ここにいる間は、君はこの部屋を使うといい。この部屋は私や土方君の部屋から近いから、身の危険は心配しなくていい。」
「ありがとうございます。」


「今、ちょっといいかな?」
「はい?」
山南さんは、辺りに人がいないのを確認すると、部屋の襖をスッと閉める。
「君、剣を握ったことはある?」
「……えっ!?」
不意を付かれ、私は固まってしまった。
山南さんは、フッと笑う。
「やはりね。先程握手を交わしたときに、違和感があったんだ。」
私の手のひらを指差し、言葉を続ける。
「剣を振るう人間なら、マメができているだろう。なのに君の手は、それがない。」
困惑している私を見て、山南さんは苦笑した。
「別に君を責めるつもりではないんだ。ただ…君が本当は何者なのか、もしよければ話してもらえないかな?」





「話したら、信じてくれますか?」
「ああ、もちろんだとも。」


真剣な眼差しを向けられ、私はこう思った。
この人にだけは、嘘をつきたくない…と。
だって、私は彼を助けるために、ここに来たんだもの。

もし嘘をついたとしても、それをつき通せるだけの力もないし。
山南さんなら、きっと全てを受けとめてくれる。
そんな気がした。



「私は、この時代の人間ではありません。」
「え…?どういうことだい?」
「別の時代から、ここへ移動してきたんです。」
「何故?」


山南さんを助けたかったから………
そう口に出したかったけれど、その言葉は今はまだ伝えないでおこう。
この先、貴方には死が待ち受けているだなんて、知らせたくない。


「浪士組の力に…私も尊王攘夷のために何かしたいんです。足手纏いなのは分っています。それでも、ここに居たいんです!」
「…………………」
山南さんは、しばらく難しい顔をして考え込んでいたけれど。
「分った。君がそう言うなら信じよう。」
「ありがとうございます。」
「ただし、ここに居させるには条件がある。」
「……何ですか?」
「無理はしないことだ。君も浪士組の者だと知れれば、何かしら危ない目に会う事もあるだろう。できる限り一人では行動しないこと。何かあれば、すぐに私を呼ぶこと。いいね?」
「分りました。」


先程までの不安が薄れていく。
とりあえずは、山南さんと一緒に居られるんだ。
これから越えていかなきゃならないことは、たくさんあるけれど。
一緒に居られることが、何よりも嬉しい。






「山南さん、いらっしゃいますか?」
次第に廊下が騒がしくなり、外から沖田くんの声が聞こえてきた。
「ああ、ここに居るよ。」
山南さんの返答に、スッと障子が開き、沖田くんが顔を出した。
「あぁ、さんも一緒でしたか…。」

「私に何か用があったんではないのかな?」

「そうそう!今何人かの人達と話していたんですけど、新入隊士を連れて大阪の街を散策しませんか?」

「私達は遊びに来たわけではないんだよ?」

「ええ、それは分ってますよ。でも見回りに出ようにも、こう土地鑑のない隊士ばかりじゃあ、足手纏いになるじゃないですか。」

「…それもそうだね。わかった、土方くんに交渉してみよう。」
そう言って立ち上がった山南さんが、ふとこちらに視線を移す。
「君は、どうする?」
「迷惑でなければ、ついて行ってもいいですか?」
彼は、私の答えを最初から予期していたようだった。
「では、行こうか。さっきの約束は守るようにね。」
「はい!」
私は立ち上がり、沖田くん、山南さんの後について部屋を出た。


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